リベンジ 〜revenge〜
著者:shauna


王宮が戦闘を開始した時。
別の場所で戦っている5人目の戦士が居た。
白い洋館の前で体に真新しい服を纏い、髪を長い青のバンダナで留めて額にこぼれないように止め、右手の人さし指に綺麗な指輪を嵌め、腰に美しい金色のサーベルを差した男。
アスロック・ウル・アトールだった。
その瞳はいつもの様子はなくまるで獲物を狙う鷹のように鋭くただ刻一刻と戦いの時を待っていた。


目が覚めた時、アスロックは一人だった。
荒廃した屋敷のベッドに寝かされ、起きた途端に枕元にあった鍵と指輪とメモを見つけたのだ。
なんだこりゃ?というよりまず、俺は生きてんのか?という疑問の方が強かったがとりあえず頭の中で状況を整理する。
確か、あの後怪しい奴らを付けていったらこの家(レウルーラ)のドアを斧で壊してどんどん踏み込んでいくのを見て、明らかに客でないことを認識し、腰のエアブレードが折れているのも忘れて突っ込んだのだ。
中に入った時、まずあの猫耳のメイドが倒れていた。
全身を殴られ斬られボロボロになっていたため、とりあえず自身の荷物の中からキズ薬を取りに二階の客間へ・・・。
するとそこに訳の分からない男達が多数居て、嫌がり泣き喚く子供達をドンドン麻袋に詰め込んでいくのを見て「やめろ!!」と大声で叫び、折れたエアブレードを抜いて応戦した。
しかし、多勢に無勢でおまけに武器まで壊れていた為、3人を斬ったところで、背後からの一撃に反応しきれず、振り返り様を斬りつけられた。
その後、全員から私刑され、気絶していたのだ。

一気に頭に血が昇る。


ムカつく・・とにかくムカつく。


敵だけじゃない。ガルスの訓練を受けておきながらあの程度の状況にすら対応できなかった自分にもだ。
おそらくこんな気持ちは生まれてから初めてかも知れない。
悔しい・・悔しくてたまらない。
しかし、今となってはどうすることもできない。
なにしろ、服はボロボロでエアブレードは血を拭きとらなかった為に侵食されてしまっている。これではもう駄目だ。
でもとにかくあのガキ共だけは助けたい。
そう決意し、ベッドから立ち上がろうとした時、
カサッと地面に落ちたメモに気が付いた。
そう言えばすっかり忘れていたが何が書いてあるのだろう。
4つに折られたそれをアスロックはゆっくりと開けた。


―最初に言っておきますがこれは私個人からのお願いです。
つまり、特に従わなかった処で別に責めたりしません。
アスロック様。どうか、皆を・・子供達を守ってあげてくれませんか?屋敷を襲った者達は私が要求に応じれば子供は返すと言っていました。これはおそらく本当でしょう。
私の読みが正しければ彼らの狙いはこの私自身です。ですので、私に利用価値がなくなれば彼らは無用となります。しかし、その後、私の策が成功すれば彼らはもう一度あの子達を人質として狙ってくるはずです。お願いです。望むモノは全て捧げましょう。お金を望むのならこの家の財産全てを渡し、さらに死ぬまで払い続けます。
身体を求めるなら実験用のモルモットの如く好きにしてくれて構いません。労働を求めるなら馬車馬の如くあなたの為に働きます。
彼らを守って上げてください。
地下の金庫の鍵を預けます。地下の金庫に入っているスペリオルはどれでも自由に使ってくれて構いません。それと服は一階の衣裳部屋に大量にありますのでどれでも好きな物を着て下さい。
P.S 巻き込んですみません。
一生に一度のお願いです。どうか、よろしくお願いします。―

速記の文面ではあったがどれだけ必死になっているかはすぐに理解できた。

「言われなくても・・・」

やるつもりだ。
すぐに地下に行き金庫の鍵を開けた。
そして・・・・
絶句する。
一体彼女達はなんなのだろうか・・
まずそこにあったのは・・・・・
砂金の山と金の延べ棒の山。うず高く積まれた砂金は人の背の数倍以上は軽くあり、部屋の隅には一世代前のリーラ金貨が大量に山積みになっている。しかも床に無造作に散らばっているのは良く見ればダイアモンドやルビーやサファイアなどの宝石の類。
15年以上生きてきたが流石にこんな大金は見たことが無い。
おそらく数百億・・いや数千兆リーラ以上・・。下手をしたらもう一つ上の位にいくんじゃないだろうか?
でも今はそんなことよりも・・・・
「スペリオル、スペリオル・・・・」
アスロックは自身の武器を探しまわる。
そして、やっと砂金の山の向こうに扉があるのを見つけた。
そこに先程の鍵を指して扉を引く。重厚な扉がゆっくりと開き、中への入口を示してくれた。

そして、また愕然だった。

 中は本当に真っ白な部屋で向こうが霞んで見える程に広い。そこに4列の白い棚が一列に並び、その棚に収められているのは・・・・
 スペリオルだ・・・。
 剣、槍、弓、ナイフ、ダガ―、服、杖。
 スペリオルだけでは無い。魔法具、魔法石や魔道書。アリとあらゆるものがそこにはあった。しかもどれもまだ使用した形跡はなく真新しい。おそらくまだ一度も使われてはいないのだろう。それがモノ毎に綺麗に分類されて置いてあるのだ。
 そうか・・・リオレストというのはスペリオルだけをつくるんじゃないんだな〜とアスロックはなんとなく理解した。
 言うならば魔法に関係する物は全て作ることができるのだろう。
 これを見たら魔道学会が黙ってないだろうな〜と思いつつ、アスロックは剣のコーナー(と言っていいのだろうか?)に向かう。
 すごい・・剣だけで数百種類ある。
 この中から探さなければならないのか・・・・
 どれにすればいいかなんか当然分からないわけで、とりあえず見た目で選ぶことにした。流石にレイピア型とかショーテル型とかは普段使わないから使いにくい気がするし、やはりロングソード型かな?と考えながら歩いていくとある一本の剣が目に飛び込んできた。
 それはサーベルだったのだが・・・。
 通常のサーベルの刃が半月を描いているのに対し、そのサーベルの刃は真っ直ぐだった。
 変わったサーベルだと思い鞘から抜いてみると刃は片刃・・・否、切っ先からの三分の一が両刃、後は片刃という変わった刃。
 疑似刃(フォースエッジ)。
突くことも薙ぎ払うことも出来、さらに軽い為片手でも両手でも使うことが出来る特殊な剣だ。
 アスロックは試しに折れたエアブレードを空中に放り投げ、
 エアサーベルでおもいっきり叩いてみる。
 途端に腕がびりびりしびれた。
 エアブレードは半ばから折れ曲がってしまった。まるで無理な力でも掛けて曲げてしまったような形。
 しかし、放り投げたサーベルの方は・・・・
殺しきれなかった威力のせいで微振動するサーベル。その刃は曲がるどころか傷ひとつ付いていなかった。
 「おいおい・・・なんだこりゃ・・・・」
アスロックがそのサーベルを気に入るのにはさして時間が掛からなかった。何にしろ、今は時間が無い。
 サーベルを腰に帯びてアスロックはすぐに金庫室をかけだした。

衣裳部屋から見つけたブルーの衣に身を包み、刻一刻とその時を待つ。
 そして向こうからこちらに迫ってくる人影を見つけ、サーベルに手を掛ける。
 走って来たのは誘拐された子供達だった。
 ただ、それに安心したのも束の間のこと・・・ガキ共は目から大粒の涙を零しながら必死にこっちに向かってくる。
 後ろに大量の軍隊を引き連れながら・・・・
 その和は約70余名。いや100人はいるかもしれない。どちらにしろ、これまで一度に相手してきた数を遥かに上回る大所帯だった。
 「アスロック!!」
 泣きながら向かってくるガキ共に「屋敷に入って鍵をかけろ!!」
 と言い、ポケットの鍵を最後に走ってきた子供に渡した。
 「地下に行くと金庫がある!その中に入って中から扉を閉ざせ!!何があろうと俺が迎えに行くまで絶対に開けるな!!」
 これでもう内側しか開けることはできない。
 アスロックの表情がさらにきつくなった。
 「アスロックは!?」
 「こいつら全員・・・・叩き潰す!」
 およそ数十メートルの距離から迫ってくる敵に向かってアスロックはエアサーベルを引き抜いた。
 「火炎の矢(フレイム・アロー)っ!」
 向かってくる敵の中央に向かってアスロックは一気に数十本の矢を発射した。矢は全て命中。敵の中央に混乱を生む。
 その瞬間をアスロックは見逃さない。一気に敵の中央に入り込み、辺りを囲まれた所で次の火術を発動させる。
「火炎障壁(ファイアー・ウォール)!」
 発生したマグマの壁は8人の兵士を巻き込み、一気に敵の中央全体を焼き尽くす。
隙を見せず、アスロックはサーベルを振った。
 サーベルは敵のエアブレードを捻じ曲げ、敵の体を切断する。
 肉を断ち切る感覚。
 アスロックの脳裏にガルスの訓練がフラッシュバックした。
 だが・・・・
 今はそんなことを考えている暇はない。
 サーベルを振り、火術を使い、敵を一気に薙ぎ払って行く。
 爆炎と剣術でのコンボ。隙は限りなく少ない。
 
 ただ・・・・

 それだけで全ての攻撃をかわしきれるかというと否だ。
 流石に連続で同時に迫る攻撃まではかわしきれない。
 飛んでくる矢や魔法はアスロックの太腿や頬を容赦なく切り裂き、背中には多数の剣で斬りつけられた傷跡が刻まれる。

 それにいくら攻撃しても全然人数が減る気がしないのだ。

 そう・・・アスロックは増援のことまで頭が回っていなかったのだ。
 
 「ハァ・・ハァ・・・ったく・・・なんで引き受けちまったんだろ・・。」
 約50人を切り裂いたところでエアブレードを杖にして肩で息をする。周りを見れば未だ余すところなく敵が取り囲んでいた。
 「俺・・・死ぬのかな・・・」
 減らない敵・・・
 増える傷。
 疲れて段々と重くなる瞼。
 それが自然と弱音につながる。
だが・・・・アスロックはそこで落ち込まない。
「どうせ死ぬなら・・・せいぜい格好つけてやる!!」
エアブレードを再び構え直し、アスロックは敵に向かって正面からぶつかって行った。
「殺せ!!」
大声で敵の指揮官が叫んだ。
同時に周りの兵士から一斉に火や水など多彩な魔術が発射される。

「ウォオォオオオオオオ!!!!」

雄叫びを上げて迫りくる魔法をすべてかわし、一気に跳躍!
月を背に地面に降り立ち、エアブレードに魔力を注ぎ込み大きく一振り!生み出された風は円状に広がり、台風のような風を生んだ。
その風に相手が体勢を崩し、守り一偏になった所で、アスロックは一番近くにいた敵に向かって跳躍し、蹴りをかましてそいつ地面に叩き伏せた。そしてそいつに飛び乗ったまま周りから迫りくる2人の兵士を蹴りとサーベルで切り裂く。
「侵掠炎矢(サルトリー・アロー)!!」
どこからかしたその声にアスロックが顔を上げた。
前方から迫りくる巨大な火の矢。
―避けきれない!!―

「ギャゥアアアアア!!」

何とかサーベルで防御したものの、アスロックは後ろに大きく飛ばされ、まるで投げられた石の如く地面を数回撥ねた。

「チックショー!!」

そう叫ぶアスロックだが、その顔には楽しさすら見える。
「こんなことなら・・・逃げときゃよかったぜ!」
ニヤリと笑って再び立ち上がり、再び敵に向かって突進していく。
迫りくる侵掠炎矢(サルトリー・アロー)。
今度はそれをすべて剣ではじき返し、敵の中央に乗り込んで再び剣を振るった。
後ろから迫りくる巨大な醜鬼(オーク)。幼獣召喚(オートゥス)されたものだろう。
そいつに踏みつぶされそうになり、慌てて身をかわすも、衝撃波で再び地を這う。だが、今度は受け身をとってすぐに立ち上がった。
・・・立ち上がったがそのアスロックの瞳が捕えたのは空を埋め尽くすほどの矢羽。
残りの魔力は殆ど無い。おそらく最後の一発。
「火炎障壁(ファイアー・ウォール)!」
飛んでくる矢を燃やし、僅かな隙間から迫りくる矢をすべて剣で叩き落とす。
だが、それでも落としきれなかった分がアスロックの腕や脇腹を容赦なく切り裂いた。
ダメだ・・・目が霞む。
大量の兵士の倒れる大地にアスロックも自然と仰向けで倒れこんだ。

「ハァ・・ハァ・・・ゴフッ・・・グァハッ!!」

口から自然と血が零れた。
しかし、脇眼で周りを見れば未だ数十人の兵士が周りを取り囲んでいる。
アスロックは痛みの強い腹部に手を添えた。
生暖かい血液の感触。どうやら矢に貫かれたらしい。
撃破数、敵200、モンスター100、矢数えきれないほど。
これでゲームオーバー・・。中々の戦果だろう。
 ボロボロになった服に嫌でもにじみ出る血液。
 自然とこぼれる涙。
 情けない。ふがいない。後少し、魔力と体力さえあれば・・。
 アスロックは自然と目を閉じた。
 
 敵将が手を振り上げる。

 杖と、矢を番えた弓が、構えられた。
 
 杖の先が光り、その場所をまるで昼の如く照らす。

 「ハァ・・ハァ・・ハァ・・」
 
 いきなり目の前にファルカスが浮かんだ。金髪を揺らして微笑みかける。
 なんだろう・・・これは・・・・
 ―フロート公国で道に迷う俺・・・・―
 ああそうか・・・走馬燈ってやつか・・・死ぬ間際に見るっていう。
  ―禿頭の盗賊の首領―
 あいつ強かったな・・・・
 ―始めた会った時のアリエス―
 全てにおいて平均なのに着ていたドレスローブが異常に似合ってたっけ・・。ついでに髪も黒だったし親近感もわいた。
 ―模擬戦時のシルフィリア・・・―
 死ぬほど可愛かった。最初見た時にはホントに人形なんじゃないかというほど綺麗で、微笑み掛けられた途端に体温が上昇してしまう。なのに剣の腕は自分と互角かそれ以上。まったく、どんな生き物だあれは・・。
 ―ポーカーをした子供達・・・・―
 チェッ・・・俺にも勝たせてくれよ・・。


「やっぱ・・死にたくねぇな・・・」


「放て!!」

その声と共にアスロックに向かって一気に魔法と矢が放たれる。
全ての攻撃は空高く上がりそこから放物線を描くようにアスロックに向かって雨のように降り注ごうとした。

ゲームオーバーだ・・。

自責の念が積もる。
―ごめん、シルフィリア・・・護りきれなかった―

「ごめん!!!シルフィリア!!!」

そう叫んだ時、右手の人さし指に激しい熱を感じる。アスロックは脇眼でそちらを睨んだ。
指輪が一気に輝いた。
アスロックを中心に展開する魔法陣。12の星座、古代文字、七芒星。
シルフィリアの魔法陣。
魔法と矢が雨の如く降り注ごうとしたその時、一瞬にしてその中央から飛び出した白い影がアスロックを抱えあげ天空へといざなった。
 「何事だ!!」
敵の司令官が叫ぶ。
そして、全員が見上げた天空。そこには天使が居た。
 14枚の羽を目いっぱいに展開し、白い髪を風になびかせ、アスロックを抱きかかえながら優雅に舞う少女。
 「シルフィリア・・・」
 アスロックがその名を呼んだ。
 「大丈夫ですか?」
脳髄まで染み渡るほど柔らかく澄んだ声・・・。
「ごめん・・守りきれなかった・・。」
「気にしないでください。敵が多すぎました。ここからは、私が全て片付けます。」
杖を手にしたシルフィリアは早速詠唱を開始する。
「来たれ魔精、闇の精 裁きの光を・・」
「待ってシルフィリア!!」
アスロックがあわててそれを静止した。
「どうしました?」
「いや・・ここは俺が片付けたいんだ・・。」
シルフィリアがキョトンとした表情で驚く。しかし、その真っ直ぐな瞳にすぐ理解した。
シルフィリアがアスロックの全身を見回す。
「何かして欲しいことは?」
「怪我を治してくれ。」
「了解です。」
シルフィリアが詠唱を変える。
「我との契約の元に具現(あらわ)れよ聖なる王。汝が統べるその大いなる力を我に与え、我望む全ての者を救え。神の息吹よ、癒しの恵みを運べ。」
アスロックの体を優しい光が包み込んだ。
「女神の息吹(ブレス・オブ・ゴッデス)!」
優しい光が途方もない気持良さと共にアスロックの体を包み込む。
傷が塞がる・・。疲れが引いてく。眠気が取り除かれていく。
(ラズラヒール)と同じ効果・・・。
いや・・・違う!!
アスロックの体に戻ったのはそれだけではなかった。
服が再生していく。乾いた喉が潤っていく。そして・・・魔力が回復していく。眠気が吹っ飛んで覚醒していく。
すごい・・・最高の気分だ。
光が止むと同時にアスロックは最高の感覚を得た。
すごい・・・体が軽い。気持ちがいい。魔力が溢れて来る。
「すげー!!なんだこれ!!めちゃくちゃ気持ちいい!!」
「女神の息吹(ブレス・オブ・ゴッデス)。ラズラヒールのオリジナル改良版です。その効果は体力、疲れだけでなく魔力、服や鎧の修復まで行えます。
まあ、聖蒼の王を従わせるだけの魔力を使うので桁違いに魔力を消費しますが・・・」
そう言ってシルフィリアはジャケットの胸から柄を取り出した。
軽く振ると柄が展開する。
「エクスレーヴァ・・・。魔力を吸う代わりに何でも斬れる魔法の剣です。」
それを優しくアスロックの手に渡した。
軽い・・・まるで刀身が無いみたいだ。
「行ってらっしゃい。」
シルフィリアがそう呟くと同時にアスロックの体から手を離す。
上空からアスロックが急降下した、地上寸前で
「浮遊術(フローティング)。」
アスロックの両足が地面に降り立った。

「待たせたな・・・」

アスロックがニヤッと笑う。
「たっぷり礼はさせてもらう!!」
アスロックが一気に走りだした。
シルフィリアはそんなアスロックに杖を向け・・・
「聖なる翼・・・ここに集いて彼の者を守れ。天使の祝福(アーデルハイト)!」
アスロックの体に変化が生じた。
まるで体が羽根のように軽い・・・
気が付いた時にはアスロックは信じられない速さで動いていることに気が付いた。
シルフィリアの方を軽く振りかえるとこちらに向けて軽くウィンクする。
「放て!!」
アスロック向けてまた雨のような魔法と矢が降り注いだ。
シルフィリアはすぐに次の魔法の詠唱を始めた。
「聖なる護り(スフィアプロテクション)。」
アスロックの体を透明な正八面体が覆う。
すべての攻撃はそれに当たって粉砕。

アスロックは思いきりエクスレーヴァを振るった。

刃は敵を武器ごと切り裂く。
凄い・・・ほとんど力を入れてないのに・・・・。
さらに周りの兵士にむかって得意の魔法を詠唱。
「火炎障壁(ファイアー・ウォール)!」
威力はマグマの壁・・・いやそれ以上・・。
まるで溶岩流を柱にしたかのような絶対的な威力。
凄い・・・最高の爽快感だ。
無敵とはこういうことを言うのか・・・・
その間隔に酔いしれてしましわぬよう、アスロックは慎重に敵を選んだ。
だが、選ぶ必要などないことにすぐに気が付く。
醜鬼だろうが敵の将軍だろうが今の自分には勝てない。
誰もが一太刀の元に消えて行く。
すごい・・・本当にすごい!!!


アスロックが余裕の戦闘を見せている間にシルフィリアは敵の首領を探した。
頭を叩かなくては相手はまた攻撃をしかけてくるかもしれない。
 
仕方がない。

シルフィリアは静かに両目を閉じた。
優しく閉じられた目が開く。
しかし・・・・その瞳には元来の色は宿っていなかった。
右目は先程と同じサファイアブルーの瞳。
そしてもう片方の左目は・・・・・
鮮やかに・・・まるで溶かした黄金のように輝く美しい金色。
 見事なまでのコントラストを演出する美しき双眸。
 だが、それに似合わずシルフィリアは辛そうに顔面を顰める。
 それはシルフィリアの過去を表わすものだった。
 移植された聖蒼の王(ラズライト)のモノだと言われる瞳。
 それが本物か偽物かはわからないが、激痛と共にシルフィリアの左目へと宿されたその瞳はこの世界において最高の能力を誇る。
 その能力とは・・・・
 左眼を開いて目の能力を発動させている。その条件を守っている限りにおいて、その瞳はありとあらゆる全ての事情を見ることが出来、見せることが出来る。魔力を使うことも無く、唯見るだけで・・。
 透視だろうが、相手の弱点だろうが、過去でも未来でも見られる。
 そしてそれを相手に幻術として完全なるリアリティと共に相手に見せることも出来る。
 但し、使用中は左目を中心に体中を焼かれているような激痛が走るが・・・。それでもこの能力はほぼ無敵といっていい。
 まさに反則の能力。
 苦痛と共に与えられたシルフィリアだけの能力。

 そして・・・・


オッドアイの金色の左目が緑の鎧の男を捉えた。
 
 およそ数百メートル先の森の中。
他とは違いただ一人だけ豪華な鎧。間違いない。あいつだ。
シルフィリアは杖を浮遊術で宙に浮かせ、体全体で弓を射るような態勢を取る。エアギターならぬ、エアアーチェリーとでも言うべきか・・・
「その矢、一筋の閃光となりて、我望むモノを貫く。正しき者に恩恵を、罪有る者には等しき死を。咎人に、滅びの光を。来たれ、白き風、空切り裂く矢羽となれ。」
 唱え終ると同時にシルフィリアの左側に白い光が集約する。
光は円から段々と形を成す。細長く2つに分かれ・・・
やがて成した形は巨大な装飾弓とそれに番えられた装飾矢。
何から何まで真っ白なそれはシルフィリアの動きと連動してゆっくりと絞られていく。
完全に弦がひかれたところでシルフィリアは呪文を口にした。
「白き死神(ビェラーヤ・スミェールチ)!」
巨大な弓から矢が放たれた。矢は星屑の尾を引きながら真っ直ぐに猛スピードで飛んで行く。
狙うは司令官ただ一人・・。
「な!なんだあれは!!」
敵の司令官がそれを目に収めた時にはもう遅かった。
必死に逃げるが矢はそれすら見越して巧みに軌道を変える。
そして司令官が木の陰に隠れた時・・。
矢は一気に上昇して上空から真っ直ぐにその男を突き刺した。
男がバタリと倒れる。


一方のアスロックも最後の敵と遭遇する。これまでに見たことも無い程巨大な醜鬼(オーク)。
手に持った長さ数メートルはあろうかという金棒を振り回し、敵だろうが味方だろうが関係なくすべての物を破壊しながらアスロックめがけて突っ込んでくる。
だが、アスロックは動かない。
完全にオークと対峙したまま、ただただ一切の動きを止めているのだ。まるで敵が近づいてくるのを待っているかのように・・。
そして、オークの金棒がアスロックを捉えた。
鋭い横への払い。当たればおそらくひとたまりもない。
だが、アスロックはそれでも動かなかった。
そして・・金棒が当たる直前・・・・
軽くエクスレーヴァを一振りした。
金棒が美しい断面を描きながら折れ、分解される。
「悪いな・・だが、今なら・・・負ける気がしない!!」
アスロックは大声でそう叫ぶと大きく跳躍し、オークの正中線から真っ直ぐに斬りおろした。
真っ二つに切り裂かれるオーク。その後ろでアスロックは静かにエクスレーヴァを待機形態へと戻す。
フーッという長い溜息の後、アスロックは手に持ったエクスレーヴァをシルフィリアめがけて投げ返した。
 シルフィリアは驚いたように手を伸ばしてそれをキャッチする。
残った僅かな兵士も逃げだした。
ここまでの光景を見たのだ。おそらく二度と戦闘に参加することもないだろう。
「シルフィリア・・・ありがと・・・」
アスロックの言葉にシルフィリアは空中で腰を折り、頭を下げた、舞台でしか見られないような優雅な仕草で・・・
「アスロック様。それではまた後ほど・・・」
シルフィリアはそう言うと、すっと空気に溶けるように姿を消したのだった。



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